任意団体を法人化する際のポイントを解説いたします。
任意団体を法人化する場合、一般社団法人・一般財団法人を選択します。
1.一般社団法人について
一般社団法人は、社員が2名以上いれば設立時の財産がゼロでも設立できます。
一般社団法人は、以下の機関設計を選択することが可能です。
① | 社員総会 | 理事 |
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② | 社員総会 | 理事 |
| 監事 |
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③ | 社員総会 | 理事 |
| 監事 | 会計監査人 |
④ | 社員総会 | 理事 | 理事会 | 監事 |
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⑤ | 社員総会 | 理事 | 理事会 | 監事 | 会計監査人 |
会員制度の任意団体を移行する場合、会員を法律上の社員として位置付けして移行すると、会員総会が社員総会に置き換わることになります。
なお、一般社団法人においても、任意の役職・機関として評議員・評議員会を設置することは可能です。ただし、法律上における評議員・評議員会は財団法人の制度のことを意味するため、法律上の評議員・評議員会と同じ扱いにすることはできません。
(会員とは別に評議員を設置し、評議員を法律上の社員と位置付ける場合は、評議員会が法律上の社員総会と同義になります。)
2.一般財団法人について
一般財団法人は、設立時に300万円以上の財産が必要となります。また、理事・監事・評議員など設立時に最低7名が必要となります。
一般財団法人は、以下の機関設計を選択することが可能です。
① | 評議員 | 評議員会 | 理事 | 理事会 | 監事 |
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② | 評議員 | 評議員会 | 理事 | 理事会 | 監事 | 会計監査人 |
一般財団法人であっても、会員制度を設けることは可能であるため、会員制度の任意団体であっても、一般財団法人となることはできます。ただし、一般財団法人は、一般社団法人と異なって法人の構成員である社員がいないため、決算承認・役員選任・定款変更等の重要意思決定は、評議員会で行うことになります。
なお、任意団体の一般法人化にあたり、将来的に公益法人化の可能性がある法人は、公益法人化をふまえた上で、法人格の選択・法人の機関設計を行っておくのが望ましいです。特に、会員と社員の関係、社員資格の得喪、議決権の付与等については認定基準を考慮して設計しておくのが望ましいといえます。
一般社団法人・一般財団法人の設立手続の主な流れは、以下の通りです。
1.一般社団法人の場合
①社員を2名以上集める。
②定款を作成する。
③設立時役員を選任する。
④公証役場で定款の認証を受ける。
⑤設立時役員が設立手続の調査を行う。
⑥設立登記の申請をする。(申請日=設立日となる。)
⑦税務署等に各種届出を行う。
2.一般財団法人の場合
①設立時の拠出金として300万円以上用意する。
②定款を作成する。
③設立時役員等を選任する。
④公証役場で定款の認証を受ける。
⑤財産(300万円以上)を拠出する。
⑥設立時役員が設立手続の調査を行う。
⑦設立登記の申請をする。(申請日=設立日となる。)
⑧税務署等に各種届出を行う。
1.法人税
(1)法人類型について
一般法人は、非営利型法人と非営利型法人以外の法人によって、課税の取扱いが異なります。
(非営利型法人)
税法上定められた34事業に課税される収益事業課税。
(非営利型法人以外の法人)
全ての事業について課税される全所得課税。
非営利型法人の方が課税の範囲が限定されていますが、課税の範囲の限定が必ずしも有利となるわけではありません。なぜなら、収益事業以外の事業において赤字が発生している場合、当該赤字を他の黒字と相殺することができなくなるからです。そのため、いずれの法人類型が有利となるかはケースバイケースです。
なお、任意団体の法人化の場合においては、一般的に非営利型法人の方が有利になるケースが多いと考えられます。任意団体を法人化する際には、任意団体の財産を一般法人に寄付することになります。当該寄付の受入を非課税とするためには、非営利型法人を選択しなければなりません。そのため、任意団体の法人化の場合は、基本的には非営利型法人を選択した方が有利になるといえます。
(2)非営利型法人の要件
非営利型法人には、「非営利性が徹底された法人」と「共益的活動を目的とする法人」の2つがあります。
(非営利性が徹底された法人とは)
非営利性が徹底された法人とは、以下の4つの要件を満たした法人のことをいいます。
1 | 定款に剰余金の分配を行わない旨の定めがあること |
2 | 定款に解散時の残余財産が公益社団・財団法人等の一定の公益的な団体に帰属する旨の定めがあること |
3 | 1、2の要件にある定款の定めに違反した行為を行ったことがないこと(特定の個人又は団体に特別の利益を与えたことがないこと) |
4 | 理事及びその親族等である理事の合計数が理事の総数の3分の1以下であること |
(共益的活動を目的とする法人とは)
共益的活動を目的とする法人とは、以下の7つの要件を満たした法人のことをいいます。
1 | 会員に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的としていること |
2 | 定款等に会員が負担すべき金銭の額(会費)の定めがあること |
3 | 主たる事業として収益事業を行っていないこと |
4 | 定款に特定の個人又は団体に剰余金の分配を受ける権利を与える旨の定めがないこと |
5 | 定款に解散時の残余財産が特定の個人又は団体(一定の公益的な団体等を除く。)に帰属する旨の定めがないこと |
6 | 特定の個人又は団体に特別の利益を与えたことがないこと |
7 | 理事及びその親族等である理事の合計数が理事の総数の3分の1以下であること |
いずれの法人も、剰余金分配・残余財産帰属等に関して一定の制約がある点、理事の親族関係者割合が一定以下である点、特別の利益を与えない点では共通しております。しかしながら、以下の点で若干要件が異なっております。
「非営利性が徹底された法人」は、解散時に残余財産等を国等に帰属させる旨の定款記載が必要となります。
他方、「共益的活動を目的とする法人」は、解散時に特定の個人又は団体に残余財産を帰属させる旨がなければ問題ありません。その点では、「非営利性が徹底された法人」よりも残余財産帰属に関する規制が厳しくありません。
しかしながら、「共益的活動を目的とする法人」は、共益的な活動を主たる目的とする点、主たる事業として収益事業を行っていない点が求められます。
(3)特別の利益について
非営利型法人を選択する場合、「特別の利益」を与えたことがないことが必要となります。
ここで「特別の利益」とは、「次に掲げるような経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付で、社会通念上不相当なもの」を意味します。
1 | 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償又は通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること。 |
2 | 法人が、特定の個人又は団体に対し、無利息又は通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること。 |
3 | 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償又は通常よりも低い対価で譲渡していること。 |
4 | 法人が、特定の個人又は団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他の資産を賃借していること又は通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること。 |
5 | 法人が、特定の個人又は団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲り受けていること又は法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること。 |
6 | 法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。 |
上記の項目は、あくまで例示列挙であり、上記以外の項目であっても、特定の者が特別に優遇されていると判断される取引は、特別の利益に該当する可能性があります。
仮に税務調査において、特別の利益の要件に抵触していると指摘された場合、非営利型法人でなくなってしまいます。そして、一度非営利型法人でなくなった場合、永久に非営利型法人に戻ることはできないことになっています。
また、非営利型法人でなくなった場合、過去課税されていなかった資産について累積で課税されることになります(いままで課税されていなかった会費収入・寄附金収入・任意団体からの譲渡財産、すべてについて累積で課税されることになります)。そのため、一旦非営利型法人を選択した場合は、特別の利益に抵触しないように留意して法人運営を行う必要があります。
特に支出の内容が明確でない取引の場合、特別の利益の指摘を受ける可能性があるため、今後の法人運営上、十分に留意する必要があります。
(4)収益事業について
非営利型法人を選択した場合、収益事業のみ課税されることになります。よって、収益事業がない法人は、法人税の申告義務がなく、収益事業がある法人は、法人の事業のうち、収益事業部分のみを計算して法人税の申告を行うことになります。
収益事業とは、法人税法施行令5条1項に限定列挙される34の事業を継続して事業場を設けて行われるものをいいます。
物品販売業 | 請負業 | 仲立業 | 遊覧所業 |
不動産販売業 | 印刷業 | 問屋業 | 医療保険業 |
金銭貸付業 | 出版業 | 鉱業 | 技芸教授業 |
物品貸付業 | 写真業 | 土石採取業 | 駐車場業 |
不動産貸付業 | 席貸業 | 浴場業 | 信用保証業 |
製造業 | 旅館業 | 理容業 | 無体財産権提供業 |
通信業 | 料理店業その他飲食店業 | 美容業 | 労働者派遣業 |
運送業 | 周旋業 | 興行業 |
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倉庫業 | 代理業 | 遊技所業 |
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2.消費税
(1)納税義務の有無について
消費税の納税義務は、基本的には2年前の課税売上の水準が10百万円超か否かで判定することになります。なお、法人設立直後は、そもそも2年前の課税売上がないため、自ら課税事業者を選択しない限り、免税事業者となります(仮に任意団体の課税売上が10百万円超であったとしても、関係がありません)。
(2)課税取引の有無について
課税取引か否かは、基本的には対価性のある取引か否かで判断することになります。法人税法上の収益事業の有無と消費税法上の課税取引の有無は全く異なる概念であり、連動しませんのでご留意ください。
(3)消費税の有利不利判定について
(1)に記載の通り、設立直後においては、何もしなければ免税事業者となりますが、消費税は、免税事業者であることが必ずしも有利になるわけではありません。多額の課税仕入が見込まれ、消費税が還付になる可能性が高い場合、免税事業者とせずに、あえて課税事業者として消費税を申告した方が有利になることもあります。
また、消費税については、原則課税計算と簡易課税計算があり、計算方法の選択によって、消費税額が異なってきます。
3.地方税
地方税については、課税所得に比例して発生する税額と毎年必ず発生する税額(均等割)があります。
毎年必ず発生する税額(均等割)は年額7万円です。それ以外の部分については、法人税上の課税所得が発生する場合、連動して地方税も発生することになります。
4.任意団体における納税義務と一般法人の第二次納税義務
任意団体における法人税・消費税・地方税の考え方は、基本的には非営利型の一般社団法人と同じ考え方です。
任意団体と一般法人は、法的には別の存在であるため、一般的には任意団体の納税義務が一般法人に継承されることはありませんが、仮に任意団体に納税すべき税金があった場合、税務調査等によって第二次納税義務を指摘される可能性があります。
一般法人化した場合、法律に基づいて法人運営を行う必要があります。以下、理事会設置法人を前提とした法人運営について解説します。
1.役員等の任期
(1)理事
理事の任期は、原則として「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(定時評議員会)の終結の時まで」であり、短縮することは可能ですが、伸長することはできません。
(2)監事
監事の任期は、原則として「選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(定時評議員会)の終結の時まで」であり、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(定時評議員会)の終結の時まで」短縮することは可能ですが、伸長することはできません。理事と監事の改選時期を一致させる場合は、監事の任期を短縮する必要があります。
(3)評議員
評議員の任期は、原則として「選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」であり、「選任後6年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」伸長することは可能ですが、短縮することはできません。
なお、上記の任期は、財団法人における法律上の評議員の場合です。社団法人において任意の制度として評議員という役職を設けている場合、あくまで任意の制度であるため、法律上の縛りはなく、定款で任意に定めることができます。
2.代表理事・業務執行理事・平理事の違い
理事会設置法人の場合、理事は、代表理事、業務執行理事、それ以外の理事(平理事)の3つに分かれます。
代表理事は、法人の代表権を有する理事であり、通常法人の代表者が代表理事になります。代表理事は理事会によって選出され、登記事項となります。
業務執行理事は、理事会の委託に基づき、法人の業務執行を行う理事のことです。業務執行理事は理事会によって選出されますが、登記事項ではありません。
それ以外の理事(平理事)は、理事会の構成員として理事会に出席し、審議等を行い、業務執行の決定をすることや理事の職務執行の監督をすることが主な職務となります。
なお、代表理事及び業務執行理事は、理事会において定期的に自らの業務執行の状況の報告を行う義務があります(報告の回数に関しては、定款の定め方によって、その回数を減らすことができます)。
3.理事会の運営
理事会は、法人運営の重要事項を意思決定する場合に開催する必要があります。
法人運営上、少なくとも以下の理事会を開催する必要があります。
(1)決算承認のための理事会
監事監査終了後、社員総会(評議員会)開催前に理事会において決算を承認する必要があります。
(2)代表理事・業務執行理事を選定するための理事会
役員改選後においては、速やかに代表理事・業務執行理事を選定するための理事会を開催する必要があります。
(3)業務報告のための理事会
代表理事及び業務執行理事は3ヵ月に1回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告する必要があります。そのため、報告理事会を開催する必要があります。なお、定款において、報告理事会の頻度を、毎事業年度に4カ月を超える間隔で2回以上とすることも可能です。なお、①、②等の他の理事会と合わせて行っても問題ありません。
(4)社員総会・評議員会招集のための理事会
社員総会・評議員会は原則として理事会の決議に基づき招集する必要があります。定時社員総会・定時評議員会の招集は、①の決算承認理事会と合わせて行うのが通常です。
(5)予算承認のための理事会
公益法人の場合、予算の作成・承認が必要となります。一般法人の場合、予算の作成・承認は必須ではありませんが、作成する場合、理事会で承認を受けるのが一般的です。
なお、理事会の出席は本人出席でなければなりません。代理人・書面決議等は認められておりません。
ただし、定款に定めがあれば、理事・監事が全員賛成の場合、例外的に書面等によって理事会の決議を行うことが可能です。
4.社員総会の運営
社員総会は、社団法人の最高意思決定機関です。そのため、以下の事項については、必ず社員総会で決議する必要があります。
①決算承認
②役員の選任・解任
③定款の変更
④その他解散等の重要意思決定事項
理事会と異なり、社員総会は、代理人出席・書面決議等が認められております。
社員総会の招集通知は、開催日の1週間前までに発送しなければなりません。また、書面決議等を認める場合は、開催日の2週間前までに発送しなければなりません。
なお、社員総会の決議事項は、原則として通知されている議題しか決議ができません。
5.評議員会の運営
評議員会は、財団法人の最高意思決定機関です。そのため、以下の事項については、必ず評議員会で決議する必要があります。
①決算承認
②役員の選任・解任
③定款の変更
④その他解散等の重要意思決定事項
理事会同様、評議員会の出席は本人出席でなければなりません。代理人・書面決議等は認められておりません。ただし、評議員が全員賛成の場合、例外的に書面等によって評議員会の決議を行うことが可能です。
評議員会の招集通知は、開催日の1週間前(定款で短縮可能)までに発送しなければなりません。
なお、評議員会の決議事項は、原則として通知されている議題しか決議ができません。
6.予算の承認・決算の承認
(1)予算の承認
予算の承認については、理事会の承認のみでも問題ありません。
(2)決算の承認
決算承認を行う際には、まず、監事監査を行い、次に理事会の承認を行い、最後に社員総会(評議員会)の承認を行います。
社員総会(評議員会)の開催日の2週間前の日から備え置く必要があるため、社員総会(評議員会)と理事会の開催日を2週間以上空けておく必要があります。
法人化に向けた作業の流れとしては、以下の通りです。
1.設立時社員・役員等の検討
理事会の本人出席等を踏まえた上で、新法人の役員等の人選を行います。
2.機関設計検討・定款案の作成
新法人の機関設計を踏まえた上で定款案を作成します。
3.受け皿としての新設法人の設立
公証役場で定款認証を行い、法務局で設立登記を行います。
4.新設法人の各種届出手続
税務上の届出等の手続きを行います。
5.事業譲渡に向けた準備
一般法人の銀行口座開設、各種契約の名義変更等、事業譲渡に向けた準備を行います。
6.任意団体から新設法人への事業譲渡の実行
事業年度末のタイミングで任意団体から新設法人へ会員・事業・財産を譲渡します。
7.新法人として実質的に運営スタート
実質的に新法人としての運営がスタートします。
任意団体の法人化の場合、ゼロから法人を設立する場合と異なり、はじめから組織が存在し、事業活動を行っています。
既存の組織を円滑に移行させるためには、必要最低限の設立手続のみでなく、今後の法人運営を踏まえた上で機関設計等を検討する必要があるといえます。
また、任意団体の法人化にあたっては、既存の財産を新法人に移行させるため、税務上の検討も不可欠になります。
さらに、近い将来公益法人化を目指している場合は、公益法人化を踏まえた上で機関設計をしておくのが望ましいといえます。
上記の通り、任意団体の法人化にあたっては、複合的な視点で検討するのが重要であるといえます。当事務所は、公認会計士・税理士・行政書士の事務所であるため、会計面・税務面・申請手続面の複合的な視点から法人化の作業をサポートいたします。