会員限定の事業の会員限定を撤廃すべきか否か

公益法人における公益目的事業は、「不特定かつ多数の者」のための事業である必要があります。そのため、会員限定の事業は原則として、公益目的事業に該当しないことになります。 

他方、会員制度を設けている法人にとって、会員となるためのメリットは、会員の増加・維持のために必要不可欠であるといえます。 

公益法人であっても、公益目的事業比率を満たす範囲で、共益的な事業を行うことは可能です。そのため、公益法人化するために、必ずしも会員限定の事業の会員限定を撤廃しなければならないわけではありません。

また、講習会等において、質の確保の観点から、参加者を会員に限定している場合もあります。そのような場合、会員と同等のレベルと思われる方も参加可能にすることで会員限定を撤廃することも考えられます。

(「不特定かつ多数の者」のための事業に関して、必ずしも万人向けの事業である必要はありません。たとえば、専門的な内容の事業の場合、合理的な参加要件を設けること自体は、問題ありません。)

会員と会員以外で価格差を設定することは可能か否か

公益法人における公益目的事業は、「不特定かつ多数の者」のための事業である必要があります。公益目的事業は、「不特定かつ多数の者」のための事業であるため、無償でなければならない、ということはありません。また、公益目的事業であっても、会員と会員以外で価格差を設定すること自体は問題ありません。ただし、明らかに会員以外を排除すると考えられるような価格設定の場合、実質的に「不特定かつ多数の者」のための事業ではないと判断される可能性があるため、留意する必要があります。

機関誌・会報等が公益目的事業に該当するか否か

公益法人において機関誌・会報等を発行しているケースは多くあります。機関誌・会報等が公益目的事業に該当するか否かについては、以下の2つがポイントとなります。 

1.受益の機会が開かれているか 

公益目的事業は、「不特定かつ多数の者」のための事業であるため、購読の機会が一般に開かれている必要があります。会員のみを限定としている場合、共益又は管理と判断される可能性が高いといえます。 

2.内容が公益目的に資する内容か

仮にホームページ等で公開することで受益の機会が開かれていたとしても、内容が公益目的に資する内容でなければ、公益目的事業にはなりません。たとえば、法人運営に関する連絡事項・会員のための情報提供等、仮に公開していたとしても、会員以外が購読するような内容ではない場合、公益目的事業として認められない可能性が高いといえます。

機関誌・会報等を公益目的事業として位置付けしようとする場合は上記の点に留意する必要があります。なお、機関誌・会報等で広告収入をとっていたとしても、公益性の観点からは問題ありません。

会費収入をどこまで公益目的事業の収入とすべきか

通常、年会費等の会費収入は、特定の事業の収入ではなく、法人全体に係る収入となります。収支相償の観点からは、なるべく公益目的事業の収入は少ないのが望ましいといえます。そこで、会費収入をどこまで公益目的事業の収入とすべきか議論があります。(なお、通常の年会費とは違い、講習会等の参加収入を会費収入という名目で徴収する場合は、100%講習会の事業の収入となるのでご留意ください。) 

1.公益社団法人の場合 

特に使途が定められていない場合、50%は公益目的事業の収入となります。ただし、会費規程等で、公益目的事業以外の使途の使用割合を定めた場合は、その割合だけ公益目的事業以外の収入とすることも可能です。なお、公益目的事業の収入は少なければ少ないほど収支相償が有利となるため、公益目的事業以外の使途の使用割合については、合理的な範囲である必要があります。(会費収入の大部分を法人会計に計上した結果、法人会計が恒常的に黒字となるような場合、法人会計への会費収入の計上割合が適切でないと判断される可能性があります)

2.公益財団法人の場合

特に使途が定められていない場合、100%が公益目的事業の収入となります。ただし、会費規程等で、公益目的事業以外の使途の使用割合を定めた場合は、その割合だけ公益目的事業以外の収入とすることも可能です。なお、公益目的事業の収入は少なければ少ないほど収支相償が有利となるため、公益目的事業以外の使途の使用割合については、合理的な範囲である必要があります。(会費収入の大部分を法人会計に計上した結果、法人会計が恒常的に黒字となるような場合、法人会計への会費収入の計上割合が適切でないと判断される可能性があります)

公益目的事業への収益事業等の利益の繰入をどの程度行うべきか

収益事業等の利益の繰入は、50%と50%超のいずれかを選択することができます(少なくとも50%は必ず繰入する必要があります) 

第2段階目の収支相償の判定は、収益事業等からの利益の繰入を含めた上で判定することになるため、収支相償の観点からは、50%繰入の方が、収支相償を満たしやすくなります。

他方、収益事業等の利益の繰入は、税務上のみなし寄附金の計算と連動しています。認定法上の収益事業等でかつ税法上の収益事業に該当する事業がある場合、税法上の収益事業から発生した課税所得の圧縮を図る観点からは、できる限り公益目的事業への収益事業等の利益の繰入を行った方が望ましいといえます。

収益事業等の利益の繰入を50%超とする場合、貸借対照表について内訳表を作成する必要があります。(正味財産増減計算書については、必ず正味財産増減計算書内訳表を作成する必要がありますが、貸借対照表については、収益事業等の利益の繰入が50%超の場合のみ作成する義務があります。)

なお、収益事業等の利益の繰入をどの程度行うべきか否かは、毎事業年度選択することが可能です。

そのため、その年度における収支相償の状況、税法上の収益事業における課税所得の発生状況等を鑑みて、法人にとって望ましい利益の繰入割合を検討する必要があります。

公益目的事業の事業区分を細分化すべきか否か

複数の事業を公益目的事業として実施する場合、事業区分をどの程度細分化すべきか否か検討する必要があります。事業区分の細分化にあたっては、以下の点が重要となります。 

1.事業の内容 

事業の内容に即して事業区分を考えます。たとえば、講習会事業と機関誌発行事業はそれぞれ内容が違うため、別の事業区分として位置付けることが考えられます。 

他方、普及啓発の観点から、情報提供の方法として、講習会を開催したり、機関誌を発行していると考えると、講習会と機関誌発行をまとめて、普及啓発事業として位置付けることも考えられます。 

このように同じような状況であっても、法人によって、事業の内容をどのように捉えるのかによって、事業の区分に違いが出てきます。

2.収支相償の観点

収支相償の観点からは、事業区分を細分化しない方が望ましいといえます。例えば、A事業の黒字が100、B事業の赤字が△200の場合、A事業とB事業をまとめてC事業として区分した場合、C事業の採算は、100−200=△100となり、収支相償を満たすことになりますが、A事業、B事業それぞれで判定した場合、A事業は黒字であるため、収支相償を満たさなくなるからです。

3.情報公開の観点

決算書類の内容は、事業区分別に開示されることになります。そのため、社員、役員、寄付者等の法人の利害関係者にとって、望ましい形で事業区分を行う必要があります。

2の収支相償の観点からは、出来る限り事業をまとめた方が有利となりますが、事業をまとめ過ぎると、事業別の採算が分からなくなります。

例えば、ある事業の使途のために寄附金を集めた場合、その事業だけの採算が分からないと、寄附金の指定解除処理、寄付者に対する説明の観点から望ましくないため、そのような場合は事業を区分しておくことが考えられます。

なお、収支相償の観点から事業区分を大きな区分でまとめていたとしても、法人運営上は、各事業の細かい採算を把握しておきたい場合があると思います。必ずしも決算書類上の事業区分と管理運営上の事業区分を一致させる必要はありません。そのため、会計システム上、部門設定について階層化が可能な場合は、決算書類上の事業区分よりも下の階層で管理運営上の事業区分を設定することによって、決算書類上の事業区分と管理運営上の事業区分を分けることが可能です。

公益目的事業とすべきか、収益事業等とすべきかの判断基準

ある事業について、公益目的事業として位置付けすべきか、収益事業等として位置付けすべきか判断する際の主な判断基準としては以下の通りです。 

1.事業の内容から鑑みて、公益目的事業になる可能性があるか。 

まず、事業の内容から鑑みて、公益目的事業になる可能性があるか検討します。仮に現在会員限定の事業等であったとしても、そもそも事業の内容自体に公益性が高い場合は、他の部分を見直すことによって公益目的事業となる可能性があるといえます。他方、単なる不動産賃貸等、そもそも事業内容自体に公益性が高くない場合は、公益目的事業の検討対象から外れることになります。

2.会員限定の事業について、会員限定を撤廃できるか。

一般的に会員限定の事業については、共益的な事業として判定されることになります。そのため、会員限定の事業を公益目的事業として位置付けようとする場合は、会員限定を撤廃することができるか否かがポイントとなります。

3.事業の採算 (収支相償・税務上の観点)

一般的に赤字の事業は、公益目的事業とし、黒字の事業は収益事業とした方が望ましいです。ただし、黒字の事業であったとしても、他の公益目的事業と合算することで全体的に赤字となるような場合等については、公益目的事業に含めることが可能です。

法人税法上の34事業に該当する事業が黒字の場合、他の公益目的事業と合算することで収支相償上問題ないのであれば、公益目的事業に含めた方が税務上有利となります(公益目的事業に該当すると、たとえ34事業に該当する事業であっても、収益事業の範囲から除外されるため)

他方、法人税法上の34事業に該当しない事業が黒字の場合は、そもそも課税が発生しないため、認定法上も収益事業に位置付けても問題ないといえます。

4.公益目的事業比率

公益目的事業比率が50%以上となるように、事業を公益目的事業に位置付ける必要があります。公益目的事業の候補となる他の事業で既に公益目的事業比率を余裕で満たしそうな場合、必ずしもそれ以外の事業を公益目的事業に位置付ける必要はありません。

上記の判断基準を複合的に検討して、最終的に公益目的事業とすべきか、収益事業等とすべきか判断することになります。

主たる収入が寄付収入の場合における財務3基準の対応の仕方

主たる収入が寄付収入の場合、寄付収入の多寡によって、公益目的事業の採算が左右されることになります。 

一般的に公益法人の法人運営は、事業計画・予算に基づいて運営しているため、予想以上の寄付収入があった場合に、フレキシブルに公益目的事業の支出を調整するのは簡単なことではありません。

そのため、予想以上の寄付収入があった場合に公益目的事業が黒字となり、結果として収支相償を満たさなくなることがあります。また、法人の財務規模によっては、黒字によって資金余剰が発生し、遊休財産額の保有制限を満たさなくなることがあります。

そのような状況を回避しようとする場合は、寄付を受領する際に、「○○の事業に使用する」等の使途を指定してもらい、指定正味財産の増加として処理するのが効果的です。指定正味財産として寄付を受入れすれば、実際にその年度に支出した金額のみ指定の解除となるため、一般正味財産においては収支がゼロとなり、収支相償を満たすことになります。また、指定正味財産は、余剰資金ではないため、仮に資金が残ったとしても、遊休財産額の保有制限上、問題ありません。

特定費用準備資金・資産取得資金と特定資産の関係

特定費用準備資金とは、将来の特定の事業費、管理費に特別に支出するために積立てる資金のことをいいます。他方、資産取得資金とは、将来、公益目的事業やその他の必要な事業、活動に用いる実物資産を取得又は改良するために積み立てる資金のことをいいます。いずれも資金も遊休財産額の保有制限上、控除対象財産となるため、遊休財産額の保有制限上は有利となります。

他方、特定資産とは、法人が特定の目的のために保有している資産のことをいいます。

特定資産の考え方は、会計上の考え方によるものであり、特定の目的で保有している資産を特定資産として計算書類上、表示するものです。

他方、特定費用準備資金・資産取得資金は、認定法の考え方によるものであり、認定法上の要件を満たす必要があるものです。遊休財産額の保有制限の計算上、控除対象財産として取扱う関係上、積立限度額・算定根拠・目的外の取崩し等について厳格に取扱うことになっています。

特定費用準備資金・資産取得資金である以上は、会計上特定資産として表示されることになりますが、会計上、特定資産として表示するものがすべて特定費用準備資金・資産取得資金となるわけではありません。すなわち、特定資産の方が、特定費用準備資金・資産取得資金よりも範囲が広いものであるといえます。

特定費用準備資金・資産取得資金として位置付けると、積立限度額・算定根拠・目的外の取崩し等について厳格に取扱うことになり、方針転換等をする場合は行政庁の確認が必要となる場合があります。

そのため、遊休財産額の保有制限上、余裕がある場合は、特定資産に計上している積立資金を必ずしも特定費用準備資金・資産取得資金に位置付ける必要はありません。

平成20年会計基準に基づく正味財産増減計算書内訳表の作成

公益法人化するためには、平成20年会計基準に基づく正味財産増減計算書内訳表を作成する必要があります。 

一般法人の場合、損益ベースの決算書類を作成していれば、必ずしも平成20会計基準に基づく正味財産増減計算書を作成する必要はありません。そのため、公益法人化する前の法人では、平成20年会計基準に基づく正味財産増減計算書内訳表を作成していないケースが多くあります。 

既存の決算書類と平成20会計基準に基づく正味財産増減計算書の違いとしてよくあるケースは以下の通りです。

1.事業区分をしていない、事業費を「○○事業費」としている

既存の決算書類としてよくあるのは、事業区分せずに、事業費を「○○事業費」として表示しているケースです。他方、平成20年会計基準に基づく正味財産増減計算書内訳表においては、事業区分を行い、事業費を費目別に表示する必要があります。

たとえば、既存の決算書類上、講習会事業に係る費用を、講習会事業費という一つの科目のみで費用を表示していた場合、平成20年会計基準に基づく正味財産増減計算書内訳表においては、講習会事業の事業区分を設定し、謝金、旅費交通費、会場費等の費目別科目で表示することになります。

2.共通費用の配賦計算を行っていない

既存の決算書類としてよくあるのは、人件費・事務所経費等を事業費に配賦計算せずに、すべて管理費に計上しているケースです。

人件費・事務所経費の中には、事業に関連する部分と管理に関連する部分の費用が含まれているものが多くあります。

そのため、平成20年会計基準に基づく正味財産増減計算書内訳書を作成する際には、事業費と管理費に共通する共通費用については、合理的な配賦基準で配賦計算する必要があります。

公益認定後の法人運営上の留意点

1.認定直後の手続き

(1)名称変更登記

一般法人が公益認定を受けたときは、一般法人から公益法人への名称変更の定款変更をしたものとみなされます。そのため、公益認定後は、名称変更の登記を行う必要があります。

 

(2)分かち決算

一般法人が公益認定を受けた際には、認定前(一般法人としての最終年度)認定後(公益法人としての初年度)で決算を分ける必要があります。また、法人税法上の取扱いも認定前と認定後で分かれるため、分かち決算による税務申告をする必要があります。

 

2.認定後、毎期提出する定期提出書類

(1)事業計画・収支予算書等

毎事業年度開始の日の前日までに、以下の書類を作成して行政庁に提出する必要があります。

①事業計画書

②収支予算書

③資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類

 

なお、収支予算書という名称となっておりますが、収支ベースの予算ではなく、損益ベースの予算で作成する必要があります。

 

(2)事業報告等の定期提出書類

毎事業年度経過後3ヵ月以内に、以下の書類を作成して行政庁に提出する必要があります。

 

①財産目録

②役員等名簿

③役員報酬基準

④運営組織及び事業活動の状況の概要及びこれらに関する数値のうち重要なものを記載した書類

 

「運営組織及び事業活動の状況の概要及びこれらに関する数値のうち重要なものを記載した書類」は、公益認定時に作成した申請書類とほぼ同様の内容となります(申請は予算数値で作成していますが、定期提出書類は決算数値で作成することになります)

3.変更届出手続・変更認定手続

公益法人は、法人の状況に変更があった場合、行政庁に変更の手続を行う必要があります。変更の手続には大きく分けて変更届出と変更認定があります。

 

(1)変更届出

変更届出とは、変更後に遅滞なく行政庁に届け出る手続きのことです。

変更届出となるのは、以下のケースです。

 

①法人の名称又は代表者の氏名の変更

②公益目的事業を行う都道府県の区域の変更

③主たる事務所又は従たる事務所の所在場所の変更

④公益目的事業又は収益事業等の内容の変更

⑤定款の変更

⑥理事、監事、評議員又は会計監査人の氏名若しくは名称の変更

⑦理事、監事及び評議員に対する報酬等の支給の基準の変更

⑧事業に行うに当たり必要な許認可等の変更

 

(2)変更認定

変更認定とは、変更前に、あらかじめ行政庁の認定を受ける手続きのことです。

変更認定となるのは、以下のケースです。

 

①公益目的事業を行う都道府県の区域の変更

所管する行政庁が変更する場合は変更認定となります。

 

②主たる事務所又は従たる事務所の所在場所の変更

所管する行政庁が変更する場合は変更認定となります。

 

③公益目的事業の種類の変更

 

④公益目的事業又は収益事業等の内容の変更

公益目的事業又は収益事業等の内容を変更しようとする場合、変更認定が必要となります。公益目的事業のみでなく、収益事業等の内容の変更であっても、変更認定が必要となる点に留意が必要です。

なお、事業の内容の変更であっても、受益の対象・規模が拡大するなど、事業の公益性についての判断が明らかに変わらないと認められる場合は変更認定でなく、変更届出となります。

変更認定手続は、公益認定時とほぼ同様の書類を作成し、行政庁の審査を受ける必要があります。なお、変更認定を受けずに公益目的事業・収益事業等を変更し、その結果認定基準不適合となった場合、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられるため、変更認定手続については留意が必要です。

 

4.税額控除申請

平成23年税制改正により、公益社団法人・公益財団法人への寄付に対して税額控除が認められるようになりました。

公益社団法人・公益財団法人への寄付は、もともと所得控除が認められております。当該所得控除は、公益社団法人・公益財団法人であれば必ず認められます。他方、税額控除については、一定の要件を満たした法人が行政庁に申請した場合、5年間の期限付きで認められる制度となっております(継続する場合は、5年度に再度申請する必要があります)