支部制度がある場合の検討論点

現在の社団法人・財団法人において、支部制度を採用している法人は数多く存在します。

新しい公益法人制度に移行するにあたって、従来の支部制度を見直す必要が生じるケースがあります。そこで、ここでは支部制度がある場合の検討論点について解説いたします。

 

 1.現行制度における支部の位置付け

現行制度における支部の位置付けは、法人によってケースバイケースです。考えられるケースとしては、以下のケースがあります。

 

①独立した法人格を有している場合

②人格なき社団等として独立して存在している場合

③法人組織の一部として存在している場合

 

①のケースは、全国組織としての法人と、各地方組織としての法人がそれぞれ独立して存在しているケースです。当該ケースの場合は、法人格がそれぞれあるため、それぞれの法人毎に移行手続を検討することになります。

③のケースは、支部は法人組織の一部であり、支部の会計と本部の会計を合算して一つの会計単位にしているケースです。当該ケースの場合は、支部と本部の会計・事業内容を合算した上で移行手続を検討することになります。

①と③のケースは、「全く別の組織であること」または「一体の組織であること」が明確なため、支部制度に関して独自の検討論点は生じません。

よくあるケースで、検討すべき論点が発生するのは、②のケースです。

②のケースは、 「社団法人〇〇協会××支部」と掲げているものの、支部独自で会費の徴収や事業活動を行ない、当該収支が本部に合算されず、支部のみで完結しているケースです。

なお、支部の実態が②に該当するのか、③に該当するのかは、法的一体性・実質的一体性を考慮して判断します。法的一体性は、従たる事務所として登記が行なわれているかで判断します。実質的一体性は、法人の事業との一体性、本部の支部に対する指揮命令権限の有無、規約における本部及び支部の関係、支部役員の選出方法、支部の予算・決算の承認方法、会費の徴収方法等を勘案して判断します。

②に該当する場合は、会計単位を本部から独立させ、③に該当する場合は、会計単位を本部と合算させることになります。実務上、「会計単位が独立しているから②に該当している」と判断しているケースがあるかもしれませんが、本来、実質的一体性から見て③に該当し、一体として経理しなければならないにもかかわらず、一体として経理していないだけであるケースもありえます。そのため、まずは、法的一体性・実質的一体性の観点からいずれのケースに該当するのか判断する必要があるといえます。

なお、③に該当する場合で、会計単位を一体として処理している方法として、支部会計の数値を厳密に取り込まずに、正味財産増減計算書上のみで「支部助成費」等という形で会計処理しているケースがあると思います。当該処理は、原則的な処理ではなく、重要性がない場合のみ認められる処理です。また、新しい公益法人の制度においては、当該処理は認められていません。そのため、当該処理を行っている場合は、移行にあたって再検討する必要があるといえます。

 

2.新しい制度における支部の取扱い

(1)公益認定基準の観点

公益認定基準においては、収支相償、公益目的事業比率、遊休財産額の保有制限のいわゆる財務3基準を満たす必要があります。人格なき社団等である支部についても法人の一部として公益認定を受ける場合は、支部の会計も本部の会計と合算し、その上で財務3基準を満たすか否か検討しなければなりません。

(2)名称の観点

人格なき社団等である支部を、法人の一部として定めずに公益認定を受けた場合、今後は、公益法人の支部を名乗ることは、名称の使用独占の規定の関係上、認められていません。なお、一般法人に移行する場合であっても、同様に名称の使用独占の規定が適用されます。

平成23年1月1日に公益認定等委員会事務局より公表された「公益認定等委員会だより(その5)」によれば、従来法人格を異にする団体が支部を名乗ることについて慎重に対応してたところ、今後は不正目的での名称使用に該当しないことが確認できるのであれば、支部名称を使うことが可能になりました。すなわち、支部を独立した存在とする場合であっても、従来通り支部名称を使用することが可能になりました。なお、ここでの支部名称の使用とは、例えば「〇〇協会××支部」という名称の使用の仕方です。任意団体であるにもかかわらず「公益社団法人〇〇協会××支部」という名称は、従来の解釈通り、使用することはできない点に留意する必要があります。

 

3.実務上の検討

(1)基本的な考え方

新しい制度に移行するにあたっては、支部を法人の一部とする場合は、支部の会計・事業内容を本部と合算する必要があります。合算せず、今後も独立した人格なき社団等として存在する場合は、「公益社団法人〇〇協会××支部」という名称を使用することは認められなくなります。

(2)従来独立していた支部を本部に合算させる場合

上記の通り、今後は支部が独立した存在である場合、「公益社団法人〇〇協会××支部」という名称を使用することが認められなくなります。そのため、従来、独立していた支部を、移行にあたって本部に合算させるケースが多いと思われます。従来独立していた支部を本部に合算させる場合の留意点としては、以下の通りです。

①支部の理解

支部の理解が重要といえます。支部にとっては、従来支部の裁量で行なっていた事業・決算が今後、本部の管理下に置かれることを意味しています。そのため、各支部の協力が必要不可欠であり、事前に支部の理解を十分に得ておく必要があるといえます。

②本部の管理体制の見直し

本部の管理体制を見直す必要があります。今後は、従来把握していなかった支部の事業及び決算を本部で把握しなければならなくなります。支部の事業内容及び決算内容は様々であり、その管理体制も様々であるケースが多いと思われます。従来、支部で管理していた事業内容・決算内容を本部で管理できるように本部の管理体制を見直す必要があるといえます。また、管理体制の見直しに伴い、管理費用の増加も検討する必要があります。

③予算の作成

移行のための申請書類は、予算数値を基礎に作成することになります。そのため、支部と本部の会計を合算したベースで予算を作成する必要があります。

(3)従来、簡便的な会計処理によって支部を合算していた場合

従来、会計単位を一体として処理している方法として、支部会計の数値を厳密に取り込まずに、正味財産増減計算書上のみで「支部助成費」等という形で会計処理しているケースがあると思います。当該処理は、原則的な処理ではなく、重要性がない場合のみ認められる処理です。また、新しい公益法人の制度においては、当該処理は認められていません。そのため、「支部助成費」等といった勘定科目の形ではなく、支部の会計をすべて取り込む必要があります。

なお、上記の簡便的な処理においては、期末の現預金残高の報告を受け、当該残高相当を「支部助成費」等のマイナスとして処理する必要がありますが、当該処理を行っていないケースも見受けられます。期末の現預金残高相当を「支部助成費」等のマイナスとして処理していない状況は、その年度に本部から支部へ支出した金額は、すべてその年度で支出され、残高がないという前提になります。仮に、支部において、現預金残高があるにもかかわらず、当該処理を行っていない場合、移行にあたって、当該現預金残高をどのように取扱うべきか検討する必要があります。

共済制度がある場合の検討論点

特例民法法人において共済制度がある場合、移行に際して検討すべき論点があります。なぜなら、公益法人、一般法人のいずれに移行した場合においても、移行した時点から改正保険業法の規制対象となるためです。

 

1.どのような共済事業が保険業法の対象となるのか

保険業法上の「保険業」に該当する場合は、保険業法の規制対象となります。保険業法上の「保険業」は、「人の生死に関して一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する生命保険」、「一定の偶然の事故によって生じることのある損害を補填することを約し保険料を収受する損害保険」等が該当します。ただし、他の法律に特別の規定があるものや一の会社が従業員を相手方とするものなどについては、保険業法は適用されません。「保険業」に該当するか否かは、内容によって個別に判断されるものであるため、「保険業」に該当する可能性があると思われる保険・共済事業を行なっている場合は、最寄の財務局に相談しておく必要があるといえます。

なお、数万円程度の慶弔見舞金については、社会通念上その給付金額が妥当なものは「保険業」に含まれておりません。「社会通念上妥当な給付金額」については、10万円を超えない金額で運用されています。

 

2.保険・共済事業を継続する場合

保険共済事業を継続する場合には、少額短期保険者、保険会社への移行が考えられます。

なお、保険会社の免許取得は免許制であるため、ハードルが高いですが、少額短期保険業者は、登録制であり、保険会社への移行よりはハードルが低いです。ただし、少額短期保険業者は、その名の通り「少額(1,000万円以下)」かつ「短期(2年以内)」の保険のみ行うことができます。

 

3.保険・共済事業を継続しない場合

保険・共済事業を継続しない場合は、保有している保険・共済契約を他の保険会社に包括移転することが考えられます。

少額短期保険業者の登録等を行なっていない場合、移行登記後は新規の保険・共済契約の引受を行なうことができません。ただし、この場合においても、既存の保険・共済契約に関しては、登録後1年間は分割払いの保険料の受取や保険金の支払い等の管理業務を行うことが可能となっています。そのため、この期間内に他の保険会社に契約を移転させる対応を行うことになります。なお、新法人への移行登記をする以前に引受した保険契約に係る業務及び財産の管理を行う新法人は、登記をした日以後遅滞なく特定保険業者の届出を行わなければなりません。

過去に個人からの寄付・贈与等を受けている場合の検討論点

過去に個人からの寄付・贈与等を受けている場合、移行に際して留意すべき事項があります。

 

1.みなし譲渡所得の非課税措置

通常、個人が法人に対して寄付・贈与を行なった場合、時価で譲渡したものとみなされ、当該資産に含み益があった場合、含み益部分に関して、譲渡所得が課税されます。

しかしながら、公益社団・財団法人、特定一般法人(非営利性が徹底された法人)に対する寄付・贈与に関しては、一定の要件を満たして国税庁長官の承認を受けた場合、譲渡所得の非課税措置を受けることが可能となります。

ここでの一定の要件とは、以下の通りです。

 

①その贈与等が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること。

②贈与等に係る財産が、その贈与等の日から2年以内に贈与を受けた法人の公益目的事業の用に供され、又は供される見込であること。

③その贈与等により、贈与者の所得税、親族等の相続税等の負担が不当に減少しないこと。

 

承認を受けた場合であっても、その後要件を満たさなくなることにより、非課税措置が取消され、課税が発生するケースがあります。

当該みなし譲渡所得の非課税措置に関しては、従来の特例民法法人のときにも認められていました。過去に当該非課税措置を受けている状況において、移行後に要件を満たさなくなった場合、非課税措置が取消されてしまいます。そのため、過去に個人から資産の寄付・贈与を受けている法人においては、公益社団・財団法人または特定一般法人への移行の要否を検討する必要があるといえます。

 

2.贈与税・相続税の非課税措置

相続・遺贈によって財産を取得した者が当該財産を相続税の申告期限までに一定の要件を満たした上で贈与を行なった場合、当該財産にかかる相続税を非課税とすることが可能です。

当該相続税の非課税措置を受けるためには、贈与により取得した財産を公益目的事業に供しなければなりません。仮に贈与があった日から2年を経過した日までに公益目的事業に供していない場合は、相続税の修正申告等を行なわなければなりません。

なお、当該贈与税・相続税の非課税措置に関しては、従来の特例民法法人のときにも認められていました。そのため、特例民法法人においても、贈与があった日から2年を経過した日までに公益目的事業に供しておく必要があります。

会計基準の適用時期

移行にあたっては、会計基準の適用時期について検討する必要があります。

1.公益法人会計基準の種類

現在、公益法人会計基準には、大きく分けて以下の基準が存在します。

 会計基準

 計算

会計単位 

 昭和60年基準  収支計算ベース  一般会計・特別会計        
 平成16年基準(新基準)  損益計算ベース  一般会計・特別会計
 平成20年基準(新・新基準)  損益計算ベース  事業単位で区分する。

法律上は、「公益法人は、一般に公正妥当と認められる公益法人の会計の基準その他の公益法人の会計の慣行を斟酌しなければならない」(認定法規則12条)、「一般法人は、一般に公正妥当と認められる会計の基準その他の会計の慣行に斟酌しなければならない」(一般法規則21条)と記載してあるのみで、特定の会計基準の適用を義務付けしているわけではありません。

法律においては、特定の会計基準の適用を義務付けしていませんが、新しい法律において作成する財務諸表は、損益計算ベースである必要があります。そのため、原則として収支計算をベースとしている昭和60年基準を適用して財務諸表を作成した場合、法律で求められている書類として認められないことになります。そのため、今後は少なくとも昭和60年基準で財務諸表を作成することは認められないといえます。

平成16年基準・平成20年基準は、損益計算をベースとした会計基準であり、会計処理は企業会計の会計処理に近いです。平成16年基準と平成20年基準の主な違いは、表示の違いです。平成20年基準においては、新しい公益法人の法律に合わせた形で財務諸表等を表示することになります。平成16年基準においては、「一般会計」、「特別会計」という形で会計単位を区分しておりましたが、平成20年基準においては、事業単位で区分することになります。

公益法人であれば、「公益目的事業会計」、「収益事業等会計」、「法人会計」に区分し、一般法人であれば、「実施事業等会計」、「その他会計」、「法人会計」に区分することになります。

 

2.平成20年基準の適用時期

平成20年基準上は、平成20年12月1日以降に開始する事業年度から適用されることとなっておりますが、移行申請する特例民法法人については、翌事業年度から適用することも可能となっています。

なお、平成20年基準における公益法人とは、以下の法人のことをいいます。

認定法2条3号に定めた公益法人 公益社団法人・公益財団法人のこと。 
整備法123条1項に定めのある移行法人 公益目的支出計画を実施中の移行法人のこと。
整備法60条に定めのある特例民法法人 移行申請をする特例民法法人のこと。
認定法7条の申請をする一般社団法人又は一般財団法人 公益認定を申請する一般社団法人・一般財団法人のこと。

移行申請の書類には、前事業年度末日の附属明細書等、平成20年基準に準拠した書類を添付する必要があるため、少なくとも申請直前の事業年度までには、平成20年基準を適用するのが望ましいといえます。

機関設計の検討

機関設計における主な検討論点は、以下の通りです。

 

1.理事

特例民法法人における理事は、移行後も理事としての地位を有しています。ただし、移行後は、一般法における理事の任期の規定が適用されます。

一般法における理事の任期は、原則として「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(評議員会)の終結の時まで」であり、短縮することは可能ですが、伸長することはできません。

仮に移行時に一般法上の任期が到来している場合、その時点で理事の任期が満了となってしまいます。その場合は、事前に移行登記を停止条件として社員総会(評議員会)で理事を選任しておく必要があります。なお、移行と同時に新たな理事を選任しておく場合においても、同様に事前に移行登記を停止条件として社員総会(評議員会)で理事を選任しておく必要があります。また、仮に従来の理事の任期が満了しない場合であっても新しく選任する理事と任期を統一させるために、一旦移行登記を停止条件として辞任してもらい、新たに選任する方法も考えられます。

なお、今後、理事会は代理出席が認められておらず、書面決議も原則としては認められていません。また、理事会は、原則として3ヶ月に1回以上開催する必要があります。そのため、現実的に理事会が成立するような構成人数を考慮した上で新しい理事候補者を選定する必要があるといえます。

 

2.監事

特例民法法人における監事は、移行後も監事としての地位を有しています。ただし、移行後は、一般法における監事の任期の規定が適用されます。

一般法における監事の任期は、原則として「選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(評議員会)の終結の時まで」であり、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会(評議員会)の終結の時まで」短縮することは可能ですが、伸長することはできません。

仮に移行時に一般法上の任期が到来している場合、その時点で監事の任期が満了となってしまいます。その場合は、事前に移行登記を停止条件として社員総会(評議員会)で監事を選任しておく必要があります。なお、移行と同時に新たな監事を選任しておく場合においても、同様に事前に移行登記を停止条件として社員総会(評議員会)で監事を選任しておく必要があります。

 

3.代表理事

理事会設置法人の場合、代表理事を選任しなければなりません。特例民法法人における代表理事は、法律上の制度ではなかったため、自動的に従来の代表理事の地位がそのまま引継がれるわけではありません。そのため、理事会設置法人は、理事会において代表理事を選任しなければなりません。

なお、移行と同時に理事会を設置する場合は、理事会において代表理事を同時に選任することができません。そのため、最初の代表理事に関しては、例外的に、定款変更の案の附則に就任予定者の氏名を記載する方法により選任することになります。

なお、一般社団法人の場合、理事会の設置は必須ではありません。理事会を設置していない一般社団法人においては、原則として全ての理事が代表権を有しています。

 

4.業務執行理事

特例民法法人における業務執行理事は、法律上の制度ではなかったため、自動的に従来の業務執行理事の地位がそのまま引継がれるわけではありません。そのため、理事会設置法人は、業務執行を行なう理事に関しては、業務執行理事として選任しなければなりません。

なお、移行と同時に理事会を設置する場合は、理事会において業務執行理事理事を同時に選任することができません。そのため、最初の業務執行理事理事に関しては、例外的に、定款変更の案の附則に就任予定者の氏名を記載する方法により選任することになります。

なお、一般社団法人の場合、理事会の設置は必須ではありません。理事会を設置していない一般社団法人においては、原則として全ての理事が業務執行権を有しています。

 

5.会計監査人

特例民法法人における会計監査人は法律上の制度ではなかったため、移行後においては、従来の会計監査人が自動的に会計監査人となるわけではなく、改めて選任する必要があります。

公益法人は、一定規模以上である場合、会計監査人を設置していなければなりません。会計監査人を設置しなければならない規模とは、以下のいずれかに該当する規模のことをいいます。

①最終事業年度に係る損益計算書の収益の部に計上した額の合計額が1,000億円以上

②最終事業年度に係る損益計算書の費用及び損失に計上した額の合計額が1,000億円以上

③最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の合計額が50億円以上

なお、一般法人であっても、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上である場合、会計監査人を設置する必要があります。

 

6.評議員(財団法人)

特例民法法人における評議員は法律上の制度ではなかったため、移行後においては、従来の評議員が自動的に評議員となるわけではなく、改めて選任する必要があります。

特例民法法人が最初の評議員を選定するためには、主務官庁の許可を受けて理事が定めるところにより選任することになります。

移行と同時に評議員を選任する場合は、理事が定め、主務官庁の許可を受けた選任方法に従って、最初の評議員候補を選任し、定款変更の案に当該候補者の氏名を記載することによって、移行と同時に評議員を選任することになります。

評議員は、理事を監督する立場にあるため、理事が評議員を選任することは許されておりません。公益認定法委員会事務局が公表しているFAQにおいては、中立的な立場にある選任機関を設置し、当該機関によって選任する方法等が望ましいとされています。

 

7.代議員制(社団法人)

一般法において社員の議決権を奪うことは許されておりません。そのため、会員が多い社団法人において「会員=社員」とし、一部の社員のみ議決権を認めるような形は、認められていません。しかしながら、会員数が膨大にいる社団法人の場合、「会員=社員」とし、社員に議決権を認めた場合、社員総会の運営が煩雑となるケースも生じます。その場合、会員の一部を社員として選出し、当該社員をもって社員総会を運営する方法が考えられます。

当該方法のことを代議員制といいます。代議員制を採用するためには、以下の要件を満たす必要があります。

①「社員」(代議員)を選出するための制度の骨格(定数、任期、選任方法、欠員措置等)が定められていること。

②各会員について「社員」を選出するための選挙(代議員選挙)で等しく選挙権及び被選挙権が保証されていること。

③「社員」を選出するための選挙(代議員選挙)が理事及び理事会から独立して行なわれていること。

④選出された「社員」(代議員)が責任追及の訴え、社員総会決議取消の訴え等法律上認められている各種訴権を行使中の場合には、その間、当該社員(代議員)の任期が終了しないこととしていること。

⑤会員に「社員」と同等の情報開示請求権を付与すること。

なお、この場合における会費収入に関しては、「社員」(代議員)と会員の会費を分ける理由がないことから、使途に定めがない場合は、会員の会費の半分は公益目的事業財産となります。

新しい制度における収支予算書の意味・重要性

新しい公益法人制度においては、収支予算書が非常に重要となります。

新しい公益法人制度における収支予算書と、従来の収支予算書は、文言が同じでも意味は全く異なります。そのため、新しい制度に移行するにあたっては、新しい制度における収支予算書の意味を正確に理解しておく必要があります。

 

1.名称は、「収支予算」でも内容は、「損益予算」

従来の収支予算書は、名称の通り、「収支ベース」の予算でした。新しい制度における収支予算書は、名称は「収支」ですが、内容は「損益ベース」の予算です。従来と内容が変更になった点、名称とは内容が異なる点について留意する必要があります。

従来の収支ベースの予算から、損益ベースの予算となったことにより、従来の収支ベース予算で明らかとされていた資金調達・設備投資の予算に関しては、別途「資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類」を作成することで明らかにする必要があります。

なお、予算は、正味財産増減計算書の様式同様に、事業区分別に予算を作成する必要があります。

 

2.予算の提出

新しい公益法人の制度においては、予算は毎事業年度開始の日の前日までに作成して、法人に備え置き、行政庁へ提出しなければなりません。予算は、機関決定した予算である必要があります。予算の承認は、総会等による承認が必須ではないため、 年2回総会等を開催するのが困難な場合は、予算を理事会承認とする方法が考えられます。

 

3.損益予算の作成方法

従来の収支ベースの予算を損益ベースの予算に置き換えるためには、主に以下の流れによって行います。

①設備投資支出、資金調達の収入・支出の数値を除外する。

②減価償却費・引当金繰入等、非資金的費用を計上する。

 

4.内部管理事項との関係

特例民法法人においては、従来通り、内部管理事項に従って、収支予算書及び収支計算書を作成しなければなりません。そのため、特例民法法人において新制度移行前に、新しい収支予算書を作成した場合、当該収支予算書が、従来の内部管理事項の収支予算書として認められるか否か議論があります。

この点については、平成21年3月27日に公表された「特例民法法人が新制度移行前に平成20年基準を採用する場合の指導監督等について(通知)」において、以下のようにまとめてあります。

・所管官庁が適当と認める場合、指導監督基準上の「収支予算書」として取扱うことも可能。

・ただし、この「収支予算書」だけでは、法人の資金面での活動計画が十分に明らかとならないと判断する場合、所管官庁において、「収支予算書」に、法人の投資活動及び財務活動に関する見込みを記載した文書の添付を求める等により、補充することも可能。

・他方、所管官庁が、引続き、平成20年基準を踏まえた資金収支ベースの収支予算書の作成等を求めると判断することも可能であるが、法人の実態や移行適宜等を参酌し判断することになる。

すなわち、所管官庁の判断次第となります。そのため、特例民法法人のときに新しいベースの「収支予算書」を作成する法人は、所管官庁に確認することが望ましいといえます。

移行にあたっての実務的なタイムスケジュール

特例民法法人は、平成25年11月30日までに移行申請を行なわなければなりません。そのため、法人の移行時期の目標を定めて、当該目標から逆算して、実務的なタイムスケジュールを作成する必要があります。移行の目標を定めるにあたっては、以下の点に留意する必要があります。

 

・平成25年11月30日までに移行申請しなければ、法人は解散してしまう。

・移行申請を行なうと必ず移行できるわけではない。要件を満たさない場合、不認定・不認可処分を受けることになる。その場合、再申請が可能である。

 

・申請の結果はすぐに出るわけではない。3〜4ヶ月はかかる可能性があり、長いと半年以上かかるケースもある。

仮に平成25年11月30日近くで申請した場合、平成25年11月30日までに申請の結果が出ない可能性があります。その場合、移行申請を行なっていれば、平成25年12月1日以降も解散せずに特例民法法人として存続することが可能ですが、万が一、不認定・不認可処分を受けた場合、その時点で解散となってしまいます。そのため、万が一、不認定・不認可処分を受けた場合であっても、再申請可能な期間を考慮して申請するのが望ましいといえます。

 

なお、申請にあたっては、承認済みの予算書・定款変更案を添付する必要があります。そのため、申請は、予算書及び定款変更案の承認を受けた後に行なう必要があるといえます。臨時総会等を開催しない限り、定時総会で承認を受けることになるため、通常は、定時総会後に申請する流れとなります。

 

3月決算法人の前提にタイムスケジュールをシュミレーションすると以下の通りです。

 

①仮に平成24年10〜12月頃に移行することを目標とします。

②申請から移行処分がおりるまでは数ヶ月かかるため、逆算すると、平成24年6〜7月頃に申請することになります。

③平成24年6〜7月に申請するためには、平成24年3月の予算総会時に予算案の承認、平成24年5月の決算総会時に定款変更案の承認が必要となります。

④平成24年3月に承認を受ける予算案は、申請書類の基礎となる予算であるため、移行の基準を満たす予算案でなければなりません。

⑤移行の基準を満たすか否かに関しては、事業内容の見直し等も含むため、半年から1年検討時間がかかる可能性があります。その場合、1年前の平成23年夏頃から検討を開始するのが望ましいといえます。

平成23年夏  移行にあたっての検討開始 
  移行の基準を満たすための検討・事業の見直し等の検討
平成24年3月 予算総会において予算承認
平成24年5月 決算総会において定款変更案承認
平成24年6月 移行申請
  審査期間
平成24年10月 移行認定・認可処分⇒新法人へ

移行後に必要な手続

移行後に必要な主な手続は、以下の通りです。

 

1.移行登記・行政庁・旧主務官庁への届出

行政庁から移行認定・認可の処分を受けたら、2週間以内に新しい法人の設立登記及び特例民法法人の解散登記を行なう必要があります。登記を行なったら、遅滞なく行政庁及び旧主務官庁に登記事項証明書を提出することになります。なお、 認定・認可後30日を経過し、催告したにもかかわらず登記しない場合、認定・認可は取消されてしまいます。

 

2.特例民法法人の最終の決算・税務申告

移行登記を行なった場合、移行登記日で決算が分かれます。すなわち、移行登記日の前日までの事業年度と、移行登記日以降の事業年度です。移行登記日の前日までの事業年度は、特例民法法人の最後の事業年度であり、移行登記日以降の事業年度は、新しい法人の最初の事業年度です。特例民法法人の決算に関しては、通常通り承認手続を経て、税務申告等を行なう必要があります。なお、登記手続き上、設立と解散を行なっていますが、あくまで登記手続き上だけであり、法人格は継続しています。

 

3.金融機関等への連絡

新しい制度に移行するにあたって、源泉所得税の取扱いが変わるケース等があります。そのため、金融機関等には、移行手続が完了した旨を連絡しておく必要があります。

 

4.公益法人へ移行した場合の届出

移行認定を受けて公益法人へ移行した場合、公益目的保有財産等とした財産について、移行登記日現在の帳簿価額を、移行登記日の属する事業年度経過後3ヶ月以内に行政庁に提出する必要があります。

 

5.移行法人へ移行した場合の届出(公益目的財産額の確定)

移行認可を受けて一般法人へ移行し、公益目的支出計画を実施しなければならない場合、移行申請書類に添付した公益目的財産額は、前事業年度の数値を基礎とした暫定的な数値です。しかしながら、本来は移行登記日現在の数値を基礎として算定されるべきものです。そのため、移行登記日から3ヶ月以内に公益目的財産額を確定させるために所定の書類を行政庁に提出する必要があります。 

 

6.毎事業年度必要な届出

(1)公益法人の場合

①事業年度開始の日の前日まで

・事業計画書

・収支予算書

・資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類等

 

②事業年度経過後3ヶ月以内

・計算書類等

・財産目録

・役員等名簿

・報酬等の支給の基準

・運営組織及び事業活動の状況の概要及びこれらに関する数値のうち重要なものを記載した書類(移行後の認定基準を満たしているか確認するための書類であり、移行認定時の申請書類と同じ形式の書類です。)

 

(2)移行法人の場合

①事業年度経過後3ヶ月以内

・計算書類等

・公益目的支出計画実施報告書(移行後に公益目的支出計画を確実に実施しているか確認するための書類です。)

移行後に留意すべき事項

移行後に留意すべき事項としては、以下の事項を挙げることができます。

 

1.公益認定を受けた場合

公益認定を受けた場合、最も回避すべきリスクは公益認定の取消であるといえます。

公益認定の取消には、大きく分けて強制的に取消される場合と行政庁の判断で取消される場合があります。

 

(1)強制的に取消される場合

①欠格事由のいずれかに該当するにいたったとき

・理事、監事、評議員の中に、公益認定の取消を受けた法人の取消原因となった事実があった日以前1年内に業務執行理事であった者でその取消の日から5年を経過していない者、脱税をした者、禁固以上の刑に処された者、暴力団関係者等に該当する者がいた場合

・その定款又は事業計画書の内容が法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反しているもの

・その事業を行うに当たり法令上必要となる行政機関の許認可等を受けることができないもの

・国税又は地方税の滞納処分の執行がされているもの又は当該滞納処分の終了の日から3年を経過しないもの

・暴力団員等がその事業活動を支配するもの

②偽りその他不正の手段により公益認定を受けたとき

③正当な理由がなく、行政庁の命令に従わないとき

④公益法人から公益認定の取消しの申請があったとき

(2)行政庁の判断で取消される場合

①公益認定の基準に適合しなくなったとき

②認定法の規定を遵守していないとき

③法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反したとき

強制的に取消される事態は、絶対に回避すべきであるといえます。特に、公益認定の取消を受けた法人の業務執行理事であった者が役員であった場合、連座して認定の取消を受けるため、他の法人の理事を兼務されている役員がいる場合は、十分に留意する必要があります。

 

2.移行認可を受けた場合で法人税法上、非営利型法人を選択していた場合

移行認可を受けて一般法人へ移行する場合、法人税法上、非営利型法人か否か選択することになります。

必ずしも非営利型法人の方が税務上有利であるとは限りませんが、非営利型法人の場合、会費収入・寄付金収入が原則として非課税となるため、非営利型法人を選択するケースは多いと思われます。

一旦、非営利型法人を選択した場合は、継続して非営利型法人としての要件を満たすように留意する必要があります。なぜなら、非営利型法人となるか否かは、税務上の届出・承認等によって該当するわけではなく、一定の要件を満たしているか否かで判定するからです。仮に要件を満たさない場合、税務調査等で否認されることになります。非営利型法人から非営利型法人以外の法人となった場合、その時点で累積所得課税をされることになります。

非営利型法人の要件は、定款の記載といった形式的な要件と、実質的な剰余金分配にあたる「特別の利益」を与えていないかといった実質的な要件があります。特に、留意すべきなのは見解の相違が生じる可能性がある「特別の利益」の有無です。なお、「特別の利益」に関しては、「特別の利益」に関する留意点をご参照ください。

「特別の利益」に関する留意点

公益法人は、公益的な存在であるため、「特別な利益」を与えてはなりません。

なお、公益社団法人・公益財団法人に限らず、新しい公益法人の制度においては、「特別の利益」の概念が存在します。まとめると以下の通りです。

 根拠

遵守すべき場合 

内容 

認定法 公益法人となる場合 公益目的事業の実施に関らず、特別の利益を与えてはならない。
整備法 一般法人へ移行し、公益目的支出計画を実施する場合 実施事業等を行うにあたり、特別の利益を与えてはならない。
法人税法 一般法人のうち、法人税法上の非営利型法人を選択する場合 剰余金分配の脱法行為を防ぐため、特別の利益を与えてはならない。

「特別の利益」に該当するか否かは、社会通念に照らして判断することになります。

なお、法人税法上は、基本通達において、より具体的に「特別の利益」に該当するケースを例示列挙しています。

①法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償又は通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること。

②法人が、特定の個人又は団体に対し、無利息又は通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること。

③法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償又は通常よりも低い対価で譲渡していること。

④法人が、特定の個人又は団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他資産を賃借していること又は通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること。

⑤法人が、特定の個人又は団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲受けていること又は法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること。

⑥法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。

移行法人でない一般法人で、法人税法上、非営利型法人以外の法人を選択していない限り、法人運営上、「特別の利益」の規定に抵触しないように留意する必要があるといえます。

財務3基準以外に気をつけるべき財務上の留意点

公益社団法人・公益財団法人となるためには、「収支相償」、「公益目的事業比率」、「遊休財産額の保有制限」の財務3基準を満たすか否かが最も重要な論点の一つであるといえます。しかしながら、当該財務3基準のみを満たせば、財務上は問題ないというわけではありません。財務3基準以外に気をつけるべき財務上の論点があります。

例えば、財務3基準のみを達成しようとした場合、短期的には、公益目的事業となる事業を赤字とし、当該事業の規模を拡大すれば、達成することが可能なケースがあります。しかしながら、短期的には、損益赤字・収支赤字を拡大できたとしても、法人全体が損益赤字・収支赤字となった場合、法人の存続が困難となってしまいます。

公益法人の運営は、収益事業等で利益を獲得し、当該利益を公益目的事業に組入れることで、公益目的事業の損失を補填していくのが基本的な考え方であるといえます。

そのため、法人には、管理費及び公益目的事業の損失を十分にカバーするだけの損益基盤が必要となります。仮に、管理費及び公益目的事業の損失を十分にカバーするだけの損益基盤がない場合、法人の純資産が減少してしまい、法人運営が困難となってしまいます。

現在の経済状況下において、法人全体の損益に十分な余裕がある法人が少ないと思われます。法人全体の損益が厳しい状況において、赤字を計上する事業を、費用ベースで50%以上行なわなければならないのは、非常に困難であるといえます。

財務3基準を満たしながら、管理費及び公益目的事業の損失を十分にカバーするだけの損益基盤を確保するためには、以下のような対策が必要となります。

・既存の事業内容を見直すことで、できる限り公益目的事業を増やす。

・収支相償を満たすための損失幅はなるべく最小限にする。

・みなし費用等、実際の費用とならない項目で公益目的事業費を増加させる。

・管理費を削減する。

・収益事業等により利益を獲得する。

・会費収入の増加を見込む。

実施事業等以外に気をつけるべき財務上の留意点

公益目的財産額がある移行法人は、公益目的支出計画を実施しなければなりません。公益目的支出は、公益目的財産額を減少させるための支出であるため、特定寄付またはマイナスの事業である実施事業を行なう必要があります。

仮に現在の法人全体の損益に十分な余裕がない場合、公益目的支出を行なうことで、法人全体の損益がマイナスとなり、継続的に公益目的支出を行なうのが困難となります。

よって、実施事業等を行なうにあたっては、実施事業等の損失をカバーできるだけの収益基盤を確保し、当該収益の範囲内で実施していく必要があります。

なお、公益法人の場合と異なり、みなし費用のような処理は認められておりません。

公益目的財産額算定にあたっての留意点

公益目的財産額を算定するにあっての留意点は、以下の通りです。

①土地

時価に関しては、単なる時価ではなく、継続使用を前提とした評価額とすることも可能です。最有効利用を前提とした時価よりも評価額が小さくなり、結果として公益目的財産額が小さくなる可能性があります。

②建物

建物は原則として時価評価資産に含めませんが、不動産鑑定評価により時価評価資産に含めることが可能です。そのため、含み損が見込まれる場合には、時価評価資産に含めた方が公益目的財産額が小さくなります。

③有価証券

市場価額がある有価証券は時価評価となります。市場価額がない有価証券でも評価を行なうことが可能な場合は時価評価となります。

④美術品等

引続き実施事業として使用するものについては、帳簿価額とすることが認められています。帳簿価額と時価との差額が著しく多額でないものと法人において判断する場合、時価評価を行なうことが困難な場合は帳簿価額とすることが認められています。

⑤準備金等

法令等により将来の支出又は不慮の支出に備えて設定が要請されている準備金等については、法人において合理的な算定根拠を示すことが可能である場合には、引当金と同様に公益目的財産額の算定から除くことができます。

⑥退職給付

退職給付会計の導入に伴う会計基準変更時差異の未処理額について、公益目的財産額から控除することができます。